【連載】Vol.004 1 of 5 サッカー香港代表・中村祐人という生き方
はじめに 1 of 5
今回の記事は、いわば「あきらめ」から生まれた。何をあきらめたのか。本人への直接取材である。なぜあきらめたのか。それは日本のTVでも日々報道されている状況が原因だ。
前回のインタビューから2ヶ月が過ぎた。相変わらず、その間にも私は香港のお隣、深セン市までは足を運んだものの、民主派デモと警察との対立で揺れる香港には足を伸ばさなかった。デモがある場所に近づかなければ危険はないが、交通が麻痺しているので時間が読めないことや、最悪は足止めを食らって香港から出られないのではないかという不安、さらには長年香港取材のコーディネーターをしてくれている方からの「最近のデモは神出鬼没で、香港人ですら外出には不安を抱いているみたい」という情報提供により、はやり香港には行かない(行けない)と判断していた。
その間、中村祐人も様々な影響を受けていた。10月第1週目の香港プレミアリーグ第4節は延期になった。また、11月に入ると中村祐人が所属するTaipo FCは交通機関の麻痺によりチーム練習が丸々1週間できなくなるという状況にも陥った。本人は自分で体を動かして調整したそうだが、試合の延期だけではなく、日々の練習にもその影を落とすようになるとは、香港の深刻さをうかがい知るひとつの現象と見ていいだろう。その一方で、中村祐人は試合に出続け、活躍を見せている。移籍直後の第3節、アウェイのイースタン戦では、2-3とリードされた状況で試合終了間際の86分、値千金の同点ゴールをミドルでたたき込んでいる。また、カップ戦であるシニアシールド杯のレンジャーズ戦では、相手CBと中盤のギャップに入り込み、パスを受け、味方のゴールをアシストする「これぞ中村祐人!」なプレーも見せている。
しっかり会って取材して記事にする。そんな当たり前のことが当たり前にできない状況の中、それでも直接取材にこだわっていた私はついにあきらめた。こんなことを言っていたらいつまでたっても中村祐人の記事が書けなくなってしまう。それなら取材方式にこだわっている場合ではない。とにかく彼の声を聞いて記事を書こう。そして、今の香港の状況を彼がどう感じているのかも聞いてみよう。もちろん、香港代表についても…。今回の記事が「あきらめ」から生まれたというのは、こういう経緯のことである。
それでは、中村祐人の最新インタビューをお届けする。