中村祐人The interview(ザ・インタビュー) 2019年1月 1/5
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プロローグ
2018年12月13日。
香港サッカー協会は、翌月に行われる「省港杯」に臨む香港代表メンバーを発表した。
「省港杯」とは、2019年1月の開催で第41回を数える伝統ある大会。省は中国の広東省、港は香港を指している。ご存知の方も多いと思うが、広東省と香港は隣接しており密接な関係にある。そんな地の利と関係性を活かした大会で、さながらダービーのような雰囲気も持ち合わせる。1月6日に広東省で、1月9日に香港でそれぞれマッチアップするホーム&アウェー方式だ。
広東省でサッカーといえば、元アジア王者でもはやACL常連の広州恒大や、ストイコビッチ氏が監督を務めることで有名な広州富力のホームタウンがある省都の広州市が有名だろう。サッカー以外では、ITやドローンの最先端技術の発信地である深セン市、カジノで有名なマカオに隣接する珠海市などがある省だ。だが、省港杯における広東チームは、広東省をホームタウンとするチームではなく、広東省出身の選手で構成される。広州恒大から楊超声、広州富力から盧琳、上海上港から林創益、山東魯能から曾宇明が選ばれるなど、顔ぶれは決して見劣りしない。
対する香港代表は2018年10月に香港パスポートを取得した傑志SCの中村祐人を選出。同じ月にインドネシアとの親善試合で初キャップを飾った中村祐人は代表戦歴を重ねる機会を得た。だが…。
先発出場した12月29日の傑志vsドリームス戦で、中村祐人は怪我を負い途中交代。試合こそ5-0でチームが快勝したものの、サポーターにとっては不安の残る結末となった。無論、私も例外ではなかったが、そんな私に、中村祐人がメッセージを送ってくれた。
「やってしまいました。怪我したあと、歩いたり、相手からチェックされてる時に何かがズレてる音がしたんですよね。でも、全然重傷ではないので、また強くなってすぐ戻ります。今日時点でも、昨日よりマシなのでご心配なさらず」
重症ではなかったことに、まずはほっと一安心だが、代表戦はどうなのか。私が「省港杯は?」と聞くと、「ダメです。昨日辞退させてもらいました。また3月に代表戦あるのでそれに向けてしっかり治してアピールしていきます」と返信をくれた。
メッセージは明るい口調だが、もちろん悔しさはあるだろう。代表を辞退することは、当たり前ながら代表に選出された者でなければできないこと。そして、その代表に選出されるということが、どれだけすごいもので、どれだけ重みがあるものか。国籍を変えてまで香港サッカーに尽くそうと日々努力を重ねる中村祐人は、その重みや責任を胸に秘めつつ、怪我の治療と次へのアピールにもう目線を向けているのだろう。だからこそ、私は不謹慎ではあるがと断わりつつもインタビューをオファーした。「怪我での代表辞退について話を聞かせてほしい」と。
この1月で、中村祐人へのインタビューも5年目に突入した。そこで、タイトルはずばり「The interview」である。不特定多数の中のインタビューを指す「An interview」ではなく、過去4年のキャリアで築き上げたインタビューという意味で、特定のインタビューとして「The interview」とした。
怪我の状況は?代表への思いは?2019年最初のインタビューをお届けする。