【連載】Vol.002-4(ラスト) サッカー香港代表・中村祐人という生き方
繰り返しになるが、ひいき目なしにこの日シティにもっとも通用していたのは間違いなく中村祐人であったし、もっと彼にボールが集まれば試合状況は変わっていただろう。しかし同時に、中村祐人は実際に対戦したからこそわかる世界との差を感じていた。そんな「世界最高峰」についても彼は試合後の会食の席で語ってくれた。ダビド・シウバの技術の高さ、デブルイネの巧さと強さ、スターリングの身体能力、ベルナルド・シウバの動き…。全員のトラップ、パススピード、プレーの正確さは言わずもがな。そして、その個々のハイレベルが組み合わさったチーム戦術としてのポジショニングの絶妙さ、寄せの速さ、コースの切り方、ボールの奪い方…。スペースの作り方に至っては、中村祐人はテーブルに置いてあるお茶、グラス、醤油入れまで引っ張り出して詳細に語ってくれた。サッカーファンなら説明するまでもなく、マンチェスターシティの監督はかのペップ(グラウディオラ)である。世界に名だたる現代サッカーの戦術トレンドを次々に生み出し実現してきたスペインの名将だ。その「今」の戦術を肌身で感じ、語ってくれたのだった。
その他にも中村祐人は傑志の基本的なチーム戦術や監督の起用方法に加えて、シティ戦におけるチームのルールや監督とのハーフタイムの会話まで話してくれた(詳細は書けないが)。また私はチームと彼個人の現在地についても聞いた。チームはこのシティ戦の後に短期間のオフを挟み、8月にはベトナムで合宿を行い開幕を迎える。更に9月からはカタールW杯のアジア予選が始まる。イラン、イラク、バーレーン、カンボジアと同組になった香港代表は、果たして中村祐人を召集するのだろうか(今日のパフォーマンスを見れば召集しない選択肢はないと思うが…)。
イングランド王者との一戦を経て、チームはどう変わるのか。そして中村祐人はどう進化していくのか。常に進化の過程にある男が、また新たな領域に足を踏み入れている。この夜集まった大観衆の声援が今も私の耳朶から離れない。試合後の出待ちのファンや、街中で彼を見つけて嬉々として一緒に写真を撮るファンの姿を目の当たりにした私には、その声援が更なる高みを目指して挑戦を続ける彼を力強く後押ししているように思えた。
了