【連載】Vol.002-3 サッカー香港代表・中村祐人という生き方
一つ目はワンタッチプレー。
マンチェスター・シティが相手となればタッチ数が多くなるとどうしてもボールを奪われてしまう。事実、この日はツータッチ以上のプレーからボールを奪われるシーンが目立った。シティの選手は寄せが速く、また囲まれてパスコースが限定されていくのだ。それを見たからと言うわけではなく、元々のプレースタイルでもあるのだが、中村祐人は少ないタッチ数でボールを回していた。特にワンタッチプレーは秀逸で、周りをしっかり見る余裕をチームで唯一持ち合わせており、また相手の寄せのスピードもしっかり踏まえた上でしっかりパスを散らしていた。驚くべきはそのワンタッチパスの正確さと出しどころで、彼のリズムでチーム全体が連動できていれば、しっかりと相手陣内までボールを運べていたであろう。
二つ目はボディコンタクト。
とは言っても、あの頑丈で強靭なシティの選手とフィジカルで対等に渡り合っていたということではない。注目すべきはその身のこなしだ。前半17分、自陣でボールをキープした中村祐人は背後から猛チャージしてきたデブルイネに倒される(なぜかノーファール!)。しかし、その後はデブルイネ含むシティの選手が身体をぶつけてきても、「ひらり」と華麗にかわしてボールロストを防いだ。その身のこなしで、再びボール奪取に来たデブルイネを見事にかわしたシーンがあった。しかもデブルイネのチャージをかわしつつ、ボールはスルーして味方に預けてチームとしてしっかりボールをキープした。これには思わず「うまい!」と声が漏れた。あまりに華麗なその身のこなしは私がかつてドイツのスタジアムで観たある日本人選手と重なって見えた。長谷部誠選手である。フィジカルでドイツ人にまともに勝負して勝てるわけがない状況で、長谷部選手もまた「ひらり」と華麗な身のこなしでボールを失わずプレーしており、その姿と重なった。
そして三つ目はタックルだ。
正直、彼のディフェンス能力がここまで進化しているとは…。中村祐人を追う記者としては恥ずかしい限りだが、想像を超えていた(言い訳ではないが、中村祐人は元々FWの選手だったのだ!)。タックルというプレーは非常に高度な判断が求められるプレーで、むやみにやってかわされると相手の侵入を許してしまうし、ボールを奪えずファールになることもある。だが、ディフェンス能力の高い選手にとっては必要不可欠な能力のひとつで、事実世界トップクラスのDFは非常に的確でアグレッシブなタックルをすると、フランスに渡った日本代表DFの昌子源も語っていた。元々FWだった中村祐人が、ここまで質の高いタックルを繰り出すとは。この日、注意を引いたのは二つのプレー。ひとつ目は「これは奪った!」と思わず膝を叩いたザネへの絶妙なタックル。だが、そこはさすがにドイツ代表クラス。ザネはグッとこらえてボールに触らず、中村祐人のタックルが届かない位置でボールを保持した。ただボールロストこそしなかったものの、その鋭いタックルにザネはボールを前に運べず。結果的にシティの攻撃のスイッチを切る効果をもたらした。そして圧巻だったのはもうひとつのプレー。デブルイネが右サイドを突破しクロスをあげようとしたシーンで、必死で食らいついた中村祐人が絶妙なタイミングでタックルした。デブルイネはクロスを上げられずに一旦サイドへ逃れたが、起き上がってライン際まで追い込んだ中村祐人は見事にデブルイネからボールを奪ってみせた。
続く